違う。今日は雨じゃない。もういいんだよプロイセン。私の手を握らないで。
 私が求める温もりはここじゃないんだ。
 かわいそうなところ、凄く似てる。素直じゃないところ、本当そっくり。でも、違うんだ。
 だから腕を…。


「…し…」
「…」
「離して!」
「うぉっ!」


 突然の大声にプロイセンは驚いた。その拍子に私の腕はプロイセンの腕からスルリと抜けた。
 腕が赤くなってるじゃないか、普憫め!(と、そんなことはどうでもいい)


「行かなくちゃ」
「何言ってんだ今更。放っておけよ。あんな元ヤンなんか」
「プロイセン。私は、アンタのこと嫌いじゃないよ」
「は?」
「だから、私をイギリスの元へ行かせて」
…」
「お願いだから」


 嫌いじゃない。このまま進ませてくれるなら。でも、これ以上私を止めるっていうなら私は…プロイセンのこと。


「勝手にしろ!」
「ごめんね…ううん。ありがとう」


 むすっ、とした表情なのに『ありがとう』と言われるなんて、きっとプロイセンは驚いているだろう。でも、その表情を見る事なく私は今来た道を戻っていく。
 プロイセンのことは嫌いじゃない。でも、私が好きなのはイギリスなんだ。



――――――――――



 あの角を曲がれば、階段。
 あと何歩?あと何秒?行かなくちゃ。会わなくちゃ。会って、ちゃんとイギリスと話さなきゃ。


「そこに彼はいないわ」


 階段を登れば、屋上。
 の、はずだった。だけど、そこにいたのは


「スーノ…」
「どうしたの?そんな恐い顔しないで」
「そ、そうだね」


 確かにそうだ。スーノは私が生徒会室に来た事…を知っているのかわからない。
 けど、私がイギリスのこと好きだっていうのは…


「残念だったね。あなたの好きなイギリスは、もう違うところに行っちゃった。…他をあたったほうがいいわ」


 知ってるのかよ…。


「そう。それは、どうもありがとう」
「いいえ。どういたしまして」


 その後、静寂。いやな静寂だ。お互いがお互いを見張ってるような感じのこの空気。
 何を話したらいいのかわからない。まさかスーノがここにいるのを予想できるはずもなかった。正直、頭はまだ混乱している。そのせいか心拍数が半端ないことになってるし…落ち着け私の心臓!


「それはそうと、あなたは何故、自分がこの世界に来たのか知ってるの?」
「は?」


 突然、スーノが質問してきた。
 私がこの世界に来た理由?それは…


「知らない…」
「なん、ですって?」
「気付いたら、イギリスの家にいた」
「あなた、何も知らないでここにいるの?!」
「え、え?うん」


 今までまとってた空気とは全然違う空気を纏い始めたスーノ。つーか、話し方も会った当初とは全然違うような…。これが本来の彼女の姿なのかな?
 会った時から思ってたけど、さっきまでは何か、私とも、イギリスやプロイセンなど国家とも、違う空気を纏ってたような気がするんだけど今はまるで…。


「呆れた…」


 そんなこと言われても、突然この世界にきたんだから困る。というか、それなら


「スーノは、私がここに来た理由を知ってるの?」
「知らなくは無いわ。私と似てなくはない理由だし」
「えっ?スーノと同じ理由?!じゃあ」
「だめよ」
「まだ何も言って無い」
「どうせ教えて、とか言うのでしょう」
「…」


 図星のようで。いや、誰でもわかるか…。(なんでスーノだけ知ってるんだ?)


「知らないということは、知らなくてもいいということよ。ただ、あなたの場合はいつか知る日が必ず来るわ。その時まで待ちなさい」
「その時、って?」
「あなたの場合は(あと一週間と少しだから…)まぁ、もう少ししたらわかるわよ」
「じゃあ、頑張って待つ」
「忍耐こそ日本人の美徳だものね」


 それが美徳なら、もしかしたら私は日本人じゃないのかもしれな…orz
 …ちょっと、待てよ。スーノもイギリスが好きなんだよね?ってことは私とはライバルになるわけですよね。昨日の敵は今日の友?いやいや、いくらなんでもそれはねーよw
 そうだよ、よく考えたら、


「なんでここまで教えてくれるの?」
「好きだからよ」
「へ?」


 いい、いきなり何を?!イギリスの次は私?いやでも私いちおう女だし…。


「私の好きな人が、あなたのこと好きだから」
「なっ、なぁー?!」
「だから早く行きなさい。どこにいるかはわからないけれど、ならきっと見つけられるから」
「う…わ、わかった」


 逆に行きづらくなりました。とは言えず、私はもう一度今来た道を戻った。私ったら往復しすぎだよね?


(私がここにいる理由はね、私が太陽で、彼が『太陽の沈まない国』と言われたからよ)



――――――――――



 午後の授業をサボって俺は街をぶらついていた。


「なんだよ。も結局は俺を一人に…いや、いいんだ俺は別に。ひとり楽しすぎるぜー!ハハハハハハハ!!!」


 ケッ!と思ってちょうど足元にあった空き缶を蹴ると、景気良い音を立てて転がっていった。しばらく蹴っていると、ある場所についた。


「ここは…」


 がいた公園じゃねーか。
 ついでに寄ってくか…と思って公園の中に足をいれた。…って、なんであいつがあのベンチに座ってるんだよ本当に胸くそわりーなこの公園呪われてんのか?


「そこはの席だぜ」
「…!そうか」
「退かねーの?」
「来たら、退く」
「はぁ?」


 なんだ?なんなんだ?
 なんでこいつはいつまでもしょんぼりした顔してんだ?自慢の眉毛が垂れ下がってるんだ?こいつの国はいつまで雨が降ってるんだ?
 いつまでたってもの気持ちに気付かない、または気付こうとしないイギリスに、俺は腹が立った。
 腹が立った俺は、


「ふざけんなよテメェ!」


 イギリスの胸倉を掴んでいた。


「何だよ?離せよ」
「なんで愛されてることに気付かないんだテメェはよォ!」
「愛、されてる?」


 ポカンって顔しやがって本当にムカツクなこいつマジうっぜーな本当に。殴っていいか?


「俺が退けって言ってるのはなァ、さっさと迎えに行けって言ってんだ!いつまでもメソメソしやがってふざけんな!失いたくねぇほど大切ならテメェの手でしっかり掴んでろこの眉毛が!」
「お前、に…そこまで言われる筋合いねぇよバカが!」


 ボコッ!(いや、バキッ?)
「これは今まで言われた分ッ!」というくらいの気合の入ったイギリスの一発。さすが元ヤン。


「いってぇえ!何しやがるテメェ!」
「あぁ?!お前がいつまでも俺の胸倉掴んで汚ねぇ唾飛ばしてるからだろうが!植民地にするぞ!」
「やれるもんならやってみろコラァ!」


 そして二人の拳が交差した。