私がこの世界に来てから一週間と少し経ったころ、もう一人、転校生が来た。 今日は亞州クラスの方が先に終わったので、私がイギリスのいる欧州クラスへと向かう。 欧州クラスも帰りのHRは終わっているらしく、遠慮なく教室へ入るとイギリスが一人の少女と話していた。 イギリスが私に気付くと、新しいクラスメイトだ、と少女を紹介してきた。 「初めまして、スーノ・ルーといいます」 イギリスの隣にいる少女は、髪が特徴的な赤毛で、他は白人の普通のヨーロッパ人のような風貌だった。瞳は空のような青で…私とはまったく違うその見た目に憧れと、嫉妬すら抱いた。でも、ニコっと 「よろしくね!」 笑うしぐさは、とても様になっている。まるで太陽のようで…ウホッ、いいおなご! 「今日から欧州クラスの一員になったんだ。クラスは違うが、仲良くしてやってくれ」 「はいはーい。よろしく!私の事はでいいから。あ、てか、どうも…イギリスが世話に」 「なってねーから!むしろ俺がを世話してるから!」 私達がいつもの調子で会話を繰り広げると(以前、フランスにコントと言われた。全力で否定したけど)とスーノは、ふふっと楽しそうに笑った。んー、なんというか癒し系な美人のお姉さまって感じだな! 「ついでに生徒会にも入る事になった」 「へー。っておい!」 「なんだ?」 「転校初日から生徒会に入れるとかイギリスさんよォ、何やらせてんだこの眉毛!麻っ呂麻呂にしてやんよ!」 「いってぇ!何しやがる!」 私が、ほあたっ!とイギリスの眉毛にピースで攻撃するとスーノが慌てて止めに入った。うん、もう攻撃は決まっているのだけれど…。 「あっ、違うのよ!私からやりたいって言ったの!」 「はい?」 「イギリスは、生徒会に入ってるから学校に詳しくなるって言ってて。それなら私も生徒会に入って出来るだけ早く学校に慣れようと思って。それに、少しでもイギリス…達の手伝いをしたいと思って」 「そういうことだ」 「でも了承したのはイギリスだから、結局眉毛のせいじゃん」 「(眉毛…)俺も、忙しいが大丈夫か、って言ったが」 「私が無理言って入れさせてもらったの。ダメかしら?」 何故か、ただなんとなく、引き下がらない私にスーノは顔を曇らせた。 いや、ダメかな?と言われましても…。その顔で言われると拒否権が無いと言うか…。 「えっと、別に入れたくないとかそんなのじゃあないんで…そんな顔をしなくても大丈、夫!生徒会頑張って!」 私は精一杯のフォローでその場を乗り切ったッ▼ そのフォローが私のためかスーノのためか、はたまたイギリス…それはないか。女二人のどちらのためなのかノーコメントでお願いしたいけど、スーノは自分のためだと受け取ってくれたようで、顔を明るくした。 「えぇ、頑張るわ!」 「イギリスのことはパシリにパシって、ボロ雑巾のように捨ててくれて構わないから」 「会長がパシリの生徒会っておかしいだろ!」 「ま、イギリスだからね(゚ー゚)b」 「なんだその理由と顔は!」 「二人とも、コントの息がピッタリね」 「「コントじゃない!」」 スーノはフランスの家に居候しているらしい…。決してコントじゃないから! って、おま!ちょ、イギリス!台詞パクんなし!ルール発動するし! ―――――――――― あの後、俺は生徒会の用事が残っていたので生徒会室まで俺、、スーノの3人で行き、生徒会室前でと別れた。今日の用事は比較的少ないはずだったが、スーノに仕事を教えたり、先生からの急な仕事の押しつけによってなど、いつもより長引いてしまった。 スーノを途中まで送り、先に帰らせたを待たせてはいけないと思い、家路を急ぐ。 「ただいま」 帰宅の挨拶をしても、家の中からの返事はなかった。自分の部屋に戻ったのかと思っていたが、リビングの扉を開けると、 「寝てんのか?」 夕食が乗せてあるテーブルに突っ伏して寝ていた。 そういえば以前、俺が遅れて亞州クラスの教室にを向かえに行ったときも寝てたな。…まさか、また寝たフリしてんじゃないのか? 今日は騙されないからな…と思い、そーっと肩に手を伸ばしてみたが、は微動だにしなかった。 …と声をかけてもまったく起きなかった。どうしようか…と悩んでいるとからぼそぼそと寝言が聞こえた。 「…さん、独り…ないから……で。わたし……から」 何を言っているのかよく聞きとれなかったが、泣きそうな顔をしていた。安心するだろうか…と思って頭を撫でてやると、微かに笑った。 こいつ、寝てるはずなのに泣きそうな顔をしてるかと思いきや、頭を撫でただけで笑うなんて、現金なやつ…。起きてるんじゃないのか?なんて思いつつ、俺もいつのまにか微かに笑っていた。 しばらくそうしていたが、が起きないと食事も出来ないので、少しだけ自己嫌悪になりながら呪文を唱える。言っておくが、効果はばつぐんだと思うぞ! 「フランスが来たぞーーーッ!!」 「ぎゃぁあああああぁぁ!!!」 やっぱり飛び起きた。 それにしても…色気のねぇ叫び声だな。寝てたほうがいいんじゃないのか…。その方が平和な気がしなくもない。 「フ、フランスは?!どこっ?どごッホッゴホッ!オエッ!っあー…すっぱい。はっ!早く逆方向へ逃げなきゃ!」 「嘘だから咽るまで必死にならなくていい!」 「えっ?なにそれ。脅かさないでよー。あいつなら嘘が本当になるかもしれないじゃん!」 「それもそうだな…。悪い。とにかく飯にしないか?」 「あいよー。汁物とか温めなおすからちょっと待ってて」 そういっては席を立ってキッチンに立った。そのときに 「それにしても久しぶりにあんな夢見た…」 というの声が聞こえてきたので、「どんな夢だったんだ?」と返した。 泣きそうな寝顔、聞き取れなかった寝言。中途半端にされたままではこのもやもやはとれない。 は一呼吸おいてから、話し始めた。 「昔の話。お母さんが独りで泣きそうな顔してたから、私が撫でてあげる夢。私も泣きそうな顔してたんだけどさ。その後にお母さんが私の頭を撫でてありがとうって言ってくれて。二人して泣きそうな顔して、その後に頭撫で合って笑ってて、可笑しい光景だよね。当人達は大真面目だったけど」 だから、寝てるのに泣きそうな顔をして、その後に 「小さいころいつも撫でられてせいか、頭撫でられるの好きなんだよねー。…夢にしては感触がリアルだったような気がするけど」 俺が頭を撫でたら笑ったのか。 まぁ、俺が頭を撫でたなんて絶対に言ってやらないけどな! 「でも、もう、お母さんにあんな泣きそうな顔させたくない…。私までいなくなったら、お母さん、本当に独りになる」 そう、かもしれない…な。 「だから、早く帰らなきゃね…」 いつもと違うの寂しげな笑顔を見て俺はもう一度、彼女の黒髪に触れたくなった。なんて絶対に言うものか! |