欧州クラスでの授業を追え、足早に亞州クラスの教室へ向かう。今日は何故か先生の話が長くて遅くなった。教室へ向かう途中、日本や中国など見知った顔の奴等とすれ違った。俺は足早に、というより少し駆け足になった。
 教室へ着くとが一人で隅の席に座って…寝ていた。俺が近付いても気がつく気配がなく寝入っているようだ。
 起こそうと思って、そっと、の肩に手を伸ばしたら


「ひっ!」


 に手を捕まれた。寝たふりか!
 俺の手をつかんだまま、はムクリと体を起こす。顔は制服の跡で変に赤くなり、表情は不機嫌そのもので。


「ずいぶんと遅かったんじゃないの?」
「わ、悪い…。先生の話が長かったんだ」
「あっそう。あと、アンタに言いたいことがまだあるんだけど、いい?」


 言って、は顔に笑顔を貼り付けた。眼が笑ってないんだが…。


「セーシェルにつけた首輪の外し方を教えろ」
「なんでが知って…ってなんでお前に教えなきゃならないんだ!?」


 いきなり植民地の話をされた。きっとセーシェルに聞いたんだろう。
 首輪の外し方って言われても、俺は外す気はまったく無い。つーか命令形かよ。


「他にも、アフリカクラスにはたくさんの犠牲者がいるんだってね」
「お前には関係ないだろ。それにこの学校は…」
「弱肉強食だから、強い奴はなんでもやっていいと?イギリスは生徒会長だから何でもやっていいっての?」


 の眼が、笑ってないどころか俺を睨んできた。いつもふざけてるような奴がいきなり真面目になるもんだから、俺は少したじろぐ。別に俺がヘタレとかじゃなくて。
 そんな俺を見ては目をつぶり、はぁ…と一つため息をつくと、


「さっさと外し方を教えろってんだクズが!私がアンタを植民地にするぞ!」


 ニッコリ笑いながら大事なところを蹴ってきた。俺は涙目になりながら首輪の外し方を教えた。
 やっぱり、だな。



――――――――――



 いろいろあったが家につき、が作った食事を食べ、食後に俺が紅茶を入れて一服した後、が風呂に入った。の料理は、自信があるだけに確かに美味い。そして俺も、紅茶だけは自信があるのでは美味しいと言っていた。
 が風呂に入っている間、面白くもないテレビを見ていたが、放課後の仕返しをしてやろうと思いつき、風呂場の方でドアの開閉の音がすると、俺はソファの肘掛によりかかり、寝たふりをした。
 ドアの開く音がし、がリビングに入る。ドアの閉まる音と共に


「あれ、寝ちゃったの?」


 という声が聞こえた。が近付いてくる。


「そういえばイギリスの寝顔って見たこと無かったなー。いつもイギリスが先に起きてるから。それにしても寝てるときは随分と可愛い顔してんじゃん」


 可愛い顔ってお前なぁ。男がそんなこと言われても嬉しくないっての。きっとニヨニヨしながら俺の顔を見てるんだろうな。目は開けられないので推測でそう考える。
 ストン…。と、向かいのソファに座ったようだ。


「寝てるときに言っても意味ないのかもしれないけど…さっきはゴメン。ついカッとなって本能でやった」


 テレビを消し忘れたせいで、何を言っているのか聞き取りずらかったが謝っているみたいだ。さっきとは、放課後の学校でのことだと思う。あれはそうとう効いたからな。カッとなってやるなよ。人間の理性で抑えろよ。お前、フランスのところに行ったほうがいいんじゃないのか?
 それから少しは黙って、俺が起きようと思ったところでは再び口を開いた。


「私ね、ここに来た日、好きだった人にフラれたの。好きっていうか…話したこともなかったけど結構人気がある人だったから、ただ周りに流されて私もそう思ってただけかもしれない。今じゃ、もうよくわからないけど」


 が放課後のときのような真面目な空気を纏う。怒っているわけではないのであのときより随分マシではあるが。


「それでも、やっぱり辛くて。たまたま、友達もその場にいなくて誰にも言えなかったし。お母さんはこんなこと知らないし。疲れがどっときたのかわからないけど、家に帰ってすぐに寝た。それで、気付いたらここにいた」


 本当に寝てただけなんだな。何か魔法でも使って飛んできたんじゃないかという期待はあっけなく消える。
 俺が聞いているのか聞いてないのか、にそれがわかっているのか、俺にはわからないが未だに話し続ける。


「知らない場所で、ワケがわかんなくて、ただでさえフラれたショックで何も考えたくないのに、怖くて不安で。でも目の前にいる人が…イギリスが助けてくれたんだってわかって、少し安心した。どこの誰かもわからない、見た事もない人を助けられるなんて、この人はなんて良い人なんだろうって思ったんだよ」


 俺が良い人…?そんなこと言われても、俺はどうしたらいいかわからない。調子に乗るべきなのか、否定すべきなのか、今の俺には、まったくわからない。
 がいきなり言うものだから、俺の判断力は鈍る。


「日本くんの家に行っても帰る方法は見つからないし、本当は泣きそうなくらい辛くて…。でも泣いても意味ないし。学校もさ、いきなり連れていかれて驚いたけど、楽しかったよ。みんな良い人だったし。明日が待ち遠しい。イギリスがなんで私を学校に連れていったのか、少しわかる。大丈夫、寂しくないから」


 それならいい。まさか俺の本意がわかるとは思わなかったけどな。
 少しでも、この世界に慣れさせてやりたかった。今だけでも、安心させてやりたかった。
 いつか帰るのが、辛くなったとしても


「だから…ありがとう」


 最後に一言、はお礼を言った。
 声をかけて制止しようと思ったが「先に寝るから、おやすみ!風邪ひくなよ眉毛!」と、は態といつもより大きい声で言って、逃げるようにリビングから去っていった。俺が目を開いたときには、既にドアが閉まった後だった。
 きっと、は俺が起きていたことに気付いてたんじゃないか、と思う。
 誰でもいいから、自分のことを聞いてほしかった。話したかった。そうじゃないと、不安で押しつぶされそうだったんだろう。それもそうだろう。いきなり自分のまったく知らないところへ来たんだからな。
 助けてやったのは特に理由もなくなんとなくだったが、ここまで感謝されるなら助けて正解だったかもしれない。
 寝たふりをして、やり返すという計画は失敗に終わった。もとより、何をするかは計画してなかったな…。まぁの意外な面を見れた(厳密に言えば聞けた)ので良しとするか。


 ただ、残された俺は、明日、にどういう顔をして向き会えばいいのかわからなかった。
 話してたときのの顔が見れなかったのが残念だ。きっと、泣きそうな顔をしてたに違いないだろうが。…その顔を見れば、明日、にどんな顔をして会えばいいかわかるのか?わからない。だけど見ないと、俺は…。


 テレビは付けっぱなしにしてはずだが、今の俺には何も聞こえなかった。








(イギイギの偽者っぷりに拍車がかかっててスマソwしかも話してねぇし。だが自重しない^q^)