何かがおかしいと思ったんだ。
 「イギリス」にいきなりぶっ飛んでるというのも、だいぶおかしいけど、目の前にいるイギリス人が私を日本人だと見定めてその場で流暢な日本語なんて話せるものなのか。いや、ない!(断定はできないけど)


「俺には英語に聞こえるけどな」
「俺は仏語で」


 酔っ払った男を引きずるイギリスと私はリビングへ戻った。私達はソファに座り、引きずられてさっきより酔いがさめた男に自己紹介した。ついでに私がここにいる経緯を説明する。
 そして、彼等が何者なのかを聞いた。何故、男が<アーサー>を「イギリス」と呼んだのか。
 どうやらここは私のいた世界じゃないようだ。そうだ、聞いた事がない。「国が擬人化」してるだなんて。最初はエスペラント語でも話してるのかな、私達。と思ったけどそんなわけがない。だって私が話せないし。
 <アーサー>という名前は相手が「国」ではない場合に名乗るそうだ。だからあの時困った顔をしたのか。そして私が「」という普通の名前を名乗ったことにより「こいつは国ではない」と思ったアーサーもといイギリスは<アーサー>と名乗ったわけだ。謎は全てとけたよバーロー!
 つーか、気付いたらタメ語だったけど、日本語に聞こえないならいいか…。


「で、アンタはフランス。いきなり抱きついてきたから正拳突きでもやろうかと思ったけど」
「勘弁してくれよーちゃん。俺も酔っ払ってたんだからさ」
「酔っ払ってたで済むなら飲酒運転はなくならないよ」
「酔っ払うまでのむなよな。二日酔いになりやすいんだからよ」
「でもなんだかんだ言ってイギリスはいつも介抱してくれるじゃねーか」
「お前のためじゃなくて俺のためだ!」


 イギリスとフランスって仲悪いのかな?さっきから言い合いばっかりしてるんだけど。イギリスは心底いやそうな顔をしているけど、フランスの押しっぷりはすごい。そんなことより、


「それでさ、帰る場所がない私はどうすればいいのかな?」


 そう。ここが私のいた世界じゃないのなら、私は私のいた世界へ帰らなくてはいけない。いけなくは、ないのかもしれないが帰りたい。何よりお母さんや友人が心配しているだろうし。


「とりあえず日本のところへ行くべきじゃないのか?」


 アホそうなフランスが真っ当な意見を出してくれた。さっきの酔っ払いエロオヤジの顔とは違い、真面目な顔をしている。フランスの意見にイギリスが頷いた。


「そうだな。日本にはいけなくても、日本のところへはいけるんだから。日本人同士、気が合うだろうし」
「私が日本人だから、日本って人…国?どっちでもいいや。とりあえずその人のところへ言って打開策を見つけるってわけね。わかった」
「そういうことだ。でも今日は夜遅いから、飲もう!」
「「帰れ!」」


 出会って1時間も経ってないけど、以前から知っているようなハモりをしてしまった。というか、このフランスの発言がおかしいからハモッた。で、間違いないと思うけど。エロオヤジの顔に戻ったフランスは私達に突っ込まれてブーたれている。まだお酒を飲みたいのか。いっそワインになればいい。絶対に飲まないけど。
 説得の末、というよりイギリスが無理やりフランスを家から追い出して彼は帰っていった。エロオヤジが帰還したことにより、イギリスの家は静寂に包まれる。
 疲れた…とまるで頬に書いてあるんじゃないかってくらいの負のオーラを出したイギリスがため息をつきながらリビングへ戻ってきた。思い出したように、ハッと私を見ると口を開いた。


「疲れただろ。今日はもう遅いから寝るといい」
「あー。うん、そうする。どこで寝ればいい?」
「今から案内する。ついてこい。あとトイレとかも教えるべきだな。こっちだ」


 イギリスについてリビングを出る。さっき<アーサー>と言われたばかりなのに既にイギリスに変わってしまった彼の呼び名。しかしイギリスの周りは「国」ばかりだから仕方ないのだろう。さっきのフランスも、明日会う日本って人もそうなのだから。しかし不思議な感じはぬぐえない。「国」と一緒にいるなんて、あまりにもおかしすぎる話だ。やっぱり。ここにいるのがあとどれくらい続くのかわからないけど、慣れておくべきだなって思った。
 先にリビングの近くにあったトイレの場所を教えてもらい、他にも私のリクエストでこの家の随所を教えてもらった。最後に、私が寝る部屋。
 イギリスがドアを開け待ってくれて、私が中に入る。ベッドと机という簡素な部屋。今日寝るだけだから、十分だろう。そう思った。今夜必要なものがあったら言ってくれ。と言ったイギリスが扉を閉めようとしたので、私は慌てて制止してイギリスに近寄った。


「今日は、本当にありがとう」


 本日何度目かのお礼をする。知らない人に泊めてもらうなんて体験は初めてしたけど、感謝の気持ちを込めて少しだけ笑ってみた。建前のような笑いじゃなくて、心の底から。


「い、いや…別に…別にお前とか誰かのためじゃないぞ!庭で寝られるなんて困るからな!」
「…はぁ。はいはい。じゃあ、おやすみ、イギリス」


 私が呆れながらも眠る挨拶をすると、彼は少し顔を紅くしながら返してくれた。


「ああ。、また明日」


 最後におやすみ、と言ってイギリスは扉を閉めた。私はすぐにベッドへ向かう。
 この世界が現実なのか夢なのか、わからないけれど、私は二度目の眠りについた。
 その首から、父に貰ったネックレスは消えていた。しかし、疲れが溜まってすぐに意識のなくなった私はそのことに気付きはしなかった。そしてこの世界に、しばらく滞在することも。


 今日が終わる。満月のきれいな夜だ。そろそろ日付も変わる頃か。

 そして最悪な朝が訪れる。