いつもと寝てる感覚が違う…。ベッドがふかふかじゃない…と、寝心地の悪さに目を覚ますと私の見知らぬ天井があった。えっと…あれはランプ?部屋を見渡して少し前のヨーロッパの屋敷みたいだなぁ。部屋のつくりからしてリビングあたり?なんて考えていたけど、ここはどこ?
 わけがわからない。私はさっきまでショックで泣いていて、疲れて寝てしまい夢を見ているのだろうか。いや、でも、夢を見ているときに「夢を見ている」なんて意識はない。ではこれはなんだ?誘拐か?!ウチにはどこの馬の骨とも知らぬ者にやる金なんか無いぞ!なんてパニックになっていたところへ


「起きたか?」


 扉が開いて声をかけられた。素敵な眉毛を持った…でも基本的に顔はいいですね。ってそうじゃなくて!ここがどこでなんで私がここにいるのか聞かないと。私が寝ていたソファの向かいのものに座った太眉毛に慌てて質問する。


「あっ!あ、あ、あの、ここは?」
「俺の家だが」
「あ、そうっすか」


 相手はいたって落ち着いて答えていたけど、違うでしょw


「いや、そうじゃなくて。あ、そうなんだけど、地名というか」
「…イギリス」
「はい?」
「イギリスだ」
「は?」
「だから!イギリスと言ったんだ!」
「は…えっ?イギリス?イギリス…イギリスーーーッ?!」
「そうだって言ってんだろ!」


 イギリス、だって?聞いてないよ!いや今聞いたよ知ったよ?
 なんで私がイギリスなんかにいるんだよ。おかしいですよ!家でただ寝てただけなのにいきなりこんなところにいるなんて…。やっぱりきっと、ここは夢の世界なんだよ。いやーそれにしてもリアルな夢ですねー。王道だけどちょっと頬つねってみようか。…バッチリ痛いんですけど、夢じゃない?!


「何で頬なんかつねってるんだ?」
「ゆ、夢なのか確認しようと思って…」
「夢?」
「だって気付いたらこんなところにいるんだよ!普通は夢だと思わない?」
「あぁ、そうだ。何でお前はあんなところで寝てたんだ?」
「あんなところ?ここじゃなくて?」


 ここでも十分おかしいけれど、私は違うところで寝てたようだ。つーか、あくまでも寝てたのか。倒れてたと解釈はしないのか。さっきはこのソファの寝心地が悪くて起きたはずなのに、本当はどこでも寝れるんじゃないのか私!


「お前は俺の家の庭で寝てたんだ」
「庭?」
「家に運んだのは別にお前のためじゃないからな!放置しとくのも気がひけるし、夜は肌寒いからとりあえず家の中へ入れたんだ。目が覚めたなら帰るといい…と、言いたいところだが今日はもう遅いから泊まっていったほうがいいかもな。お前、見たところ日本人だしここらへんの夜は危ないからな」
「ねぇ、それって新手のナンパ?手が早すぎるんじゃね!?」
「そんなわけあるか!お前なぁ、助けてもらった奴にいきなりナンパはないだろ」
「それもそうだね。(じゃぁ)ありがとう」
「服は…ないから、とりあえず今日はそのままで我慢してくれ。家に電話して明日にでも帰るといい」
「うん。どうも」


 庭で倒れてたとか、ぶっ飛んでるにもほどがある。ぶっ飛んできたのは私だけど、何が起こっているのかさっぱり理解できない。いきなりイギリスにいるのもおかしいし…。とりあえず今日はこの太眉毛が泊めてくれるようだ。見知らぬ場所に来て見知らぬ人に助けられてしまったが、あての無い今の私にとってはラッキーというべきだと思う。まぁ、「そのままで我慢しろ」っていう服装が制服なのはいただけないかな、とは思うけど。つか、さっきまで寝てたから既に皺になっててアウトだわ。
 そういえば「家に電話」と言われたけど、電話はどこにあるのだろうか。あ、そうだ。もう一つ聞かなくては。


「悪いんだけど、、電話ってどこにあるの?」
「あぁ、言って無かったな。その扉を出て左にある」


 そういって太眉毛はさきほど自分が入ってきた太眉毛の後方にある扉を指差した。しかし私の目的はもう一つあるのですぐには部屋から出なかった。お世話になるというのに、私は彼の名前をしらない。だから聞こうと思った。いつまでも<太眉毛>は不便すぎる。そしてかわいそうだ。…自分で名付けといてそれは言えないか。


「あのさ、あともう一つ聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「名前を」
「名前…」


 「名前」と言った瞬間、太眉毛は少し困った顔をした。言えないような事情があるのか。それとも言いたくもないようなおかしい名前なのだろうか。日本には「光中」と書いて「ピカチュウ」と読ませる親もいるくらいだからそれもありえなくはない。というか聞いておいて私は名乗ってない。それは無礼だなと思って、相手が答える前に名乗った。


「聞いておいて名乗らないのはダメだよね。私は。名乗れないなら別にいいんだけど、でもちょっと不便だと思って。今日しかお世話にならないけど」


 私が名乗ったことにより、太眉毛も名乗らなくてという更に困った表情になった。名乗られたのに名乗らないのは無礼だと彼も思っているだろう。どうせなら知りたいな、とは思うけど無理にとは思わないので名乗った私は部屋を出て電話をかけようと思った。ドアノブに手をかけたとき


「待て。アーサーだ。アーサー・カークランド」


 彼は渋々といった感じで答えてくれた。あの表情には言ってはいけないけど、言う。みたいなものも含まれていたような気がするけど、私にはその理由などがわからないので触れずにスルーしようと思った。


「アーサー、ね。今日はどうもありがとう」


 お礼を言って、私は今度こそ部屋を出た。


 アーサーに言われた通り出てすぐ左にある電話を見つける。国際電話のダイヤルはなんだっけなーと思いつつ、自宅のダイヤルを回し、受話器を手にとる。
 …繋がらない。国際電話のダイヤルがいけなかったのだろうか。私の適当さがいけなかったのか。5回くらいかけてみたが一向に繋がる気配はなく私は諦めた。
 繋がらなかったから親に連絡はとれないけど、他にどうしたらいいかわからないから今夜はとりあえず泊めてもらい明日には帰ろうと思ったが、金が無い。イギリスから日本にはどうやって帰ろうか。そのことについても相談しようと思ってさきほどアーサーといた部屋に戻ろうとしたら。


「イ…ス…はい…ぇがぁああ」


 電話とは反対方向にある、玄関と思われるドアからけたたましいノックと不気味な声がした。突然のことに叫びそうになったがなんとか我慢した。ドアに近づくべきではないのだろうけど、そのときの私はそこにいるのが誰なのか確認したくなってしまった。それが失敗だった。
 ドアの覗き窓から覗こうとした瞬間、


「イギリスはいねぇがあああああああ!!!」
「うわぁあああああ!?!?」


 突然ドアが開いて入ってきた男に抱きつかれた。なんていうか、もの凄くお酒臭い。
 

「どうした!」
「イギリスぅうう!一緒に酒飲まないか☆」
「わ、わたっ、わたしはイギ、リスじゃない、ってか揺らさ、ないで…」


 抱きついたと思ったら次に肩に手をかけてグラングラン揺らしてきた。頭が外れそうになるわ気持ち悪くなるわで大変なんだけど。


「あれ、イギリスじゃない?まぁ嬢ちゃんでもいいや。一緒にの ま な い か ?」
「あっ!フランっ…ス!くそっ!バカ野郎!」
「お、本物のイギリス!」


 アーサーではなくイギリスと呼ばれた太眉毛は、入ってきた男にいきなり怒鳴った。そして「、無事か?」と私を心配しつつ私から酔っ払いを剥がす。
 イギリス、って何だ?確かにここはイギリスだけど、イギリスにいるから?だとしたらこの酔っ払いもイギリスじゃないのか。
 <アーサー>が言った「フランス」が聞こえなかった私はそんなことを考えていた。