フラれた。
 突然すぎて泣くだとか前から薄々と気付いてましたとか、そんなものではなく、まるで首都の某S区のような一方通行だった私の恋は終わりを告げた。意中の人に告げる事なく私は玉砕したのだ。
 入学当初から好きで、でもクラスが違って遠くから見つめるだけだったあの人は、一年と半年後に彼女という権利を持った女子を連れていた。遠くから見つめるというよりは実際に遠くにいたわけだ。

 行動が遅すぎるだとかそんなこと言われてもそれこそもう遅いし、だいたい、それ知るキッカケに対しては運が悪かったとしかいいようがない。学校から近道して駅まで行こうと裏道を通った際に…誰が想像するだろうか。今からヤる…場面に遭遇するなんて。
 彼女がいることにもショックを受けたし、それに公開プレイか!というつっこみをしたかったのだけど、私はあまりにも冷静に「あ、すみません」と言って走って裏道から出てしまった。すぐそこには商店街があるのだが、彼等がいた場所は見つかりにくい入り組んだ場所だ。良く見つけたねと言ってあげたい。そして冷静に対処して走りさった自分を自分で褒めてあげたい。

 商店街をとぼとぼと歩きながら、さきほどの光景を思い出す。あれは彼女なのだろうか、それともいわゆるセフレなのだろうか。私は恋をすることはあっても、ああいう行為には無縁なので、家に帰ったら幼馴染に電話して「どっちだと思う?」と相談しようと思った。でも幼馴染は部活に入っている。私が帰ってもすぐには相談できないだろう。と数秒でいろいろ考えた末に、頭がパンクしそうになったので考える事をやめた。
 駅に着いて丁度電車が来た。こんなところで運を使ってしまっても、何も嬉しくないのだけど。死にそうな顔をしながら電車に乗る。席はあいておらず、閉まっている方のドアへ行きよりかかる。昼が短くなったこの季節、オレンジ色の夕日が私を照らした。そして考える事をやめたはずの先ほどの光景がよみがえる。家に帰っても誰にも相談できないのなら自分で考えた方が早いと思い、そして最初に戻るわけだ。
 色恋沙汰は苦手だし、まぁこれも青春のひとつよハハハ…という感じだった。彼等が相思相愛で幸せになれるならそれでいいじゃないか。私は祝福するよ…なんて考えて、やっぱり少し悲しくなった。フラれたんだなぁ。

 家の最寄り駅に電車が到着した。そそくさと降り、歩くのが早い私は改札を抜け早々に家に帰る。今は何よりもフカフカのベッドに転がって枕に顔を埋めて、嗚咽が漏れないように泣きたかった。冷静に対処したのは、泣きたくなかっただろうか。と今考える。いいから早く家へ帰りたい。


「ただいま…」
「おかえりなさーい。あと30分くらいで御飯できるから少し待っててね」


 家に着くとお母さんが晩御飯を作っていた。お父さんは永遠に出張中でいない。養育費などはくれるが他に女の人がいるんだと近所の噂になっている。
 噂というのも、私が物心着く前には家からいなくて、私はお父さんに会った事がない。だからお父さんにあまり関心がないのだ。友達の話を聞くとたまに羨ましいなとも思うけど、別に困ってないしいなくてもいいかなと思う。
 以前、お母さんに辛くないのかと聞いた事があったけど、私がいれば十分だと言ってくれた。だから、私はずっとお母さんの傍にいようと一人、心の中で誓った。迷惑をかけることもあるかもしれないけど、私に出来る事はたくさんやろうと思った。家事の手伝いとか、バイトとか。


「お母さん、ちょっと気分悪いから寝るね。御飯出来たら起こして」


 そういって自分の部屋に入る。今日は手伝える気分じゃない。お母さんには悪いけど、玉砕したことで胸がいっぱいだ。いっぱいすぎて頭は痛いし気分が悪い。それに泣きたい。
 部屋に入って制服のままベッドに横になった。横になった瞬間、今まで我慢していたものが溢れる。嗚咽が出ていてもお母さんは何もいわないでくるが、私がいやだった。
 10分くらい泣いて、ふと顔をあげる。目に入ったのは机の上にある小物入れ。体を起こし、小物入れに手を伸ばす。その中から一つのネックレスを取り出す。トップが白いユニコーンと月のそれは、出張中の父が1年前の誕生日に送ってきたものだ。捨ててやろうかとも思ったけど、トップが気に入ったので大事にとってある。それに、唯一のプレゼントだった。
 久しぶりに身に付けてみる。特に意味は無かったが、なんだかそうしたかった。そして再びベッドに入る。泣き疲れたのか、私はすぐに眠ってしまった。
 太陽は沈み、空には月が昇っていた。
 

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 俺は自分の家で妖精たちと遊んでいた。こいつらは周りの奴等と違って俺のことをツンデレだの変態だの言わないし優しい。そして何より可愛い。あんなものに通って会長という役職の俺は毎日毎日事務処理などをして疲れているが、こいつらが癒してくれる。中でもユニコーンなんかは白くてふわふわだし俺の一番のお気に入りだ。バカにするやつは海賊に襲わせてやる。
 今日も例の如くいやされていた。一日がもうすぐ終わる。明日は休日だし、ゆっくりできるな…と月を眺め、ユニコーンを撫でながら考えていたわけだが、突然ユニコーンが窓の方へかけだした。窓をすり抜け、外へ出ていった。どうやら庭の方へいったみたいだ。家の中では比較的自由にさせているが、あのおとなしいユニコーンがいきなり窓をすり抜け庭へ行くなんてのはとても珍しい。俺はユニコーンを追うために外に出た。

 庭の茂みの方からユニコーンの鳴き声が聞こえる。それを頼りにユニコーンのもとへ駆け寄ると女が一人倒れていた。見た目からすると、ジャパニーズだろうか。なんでこんなところに倒れてるんだ?と思ったが、夜は肌寒くなってきているし放置しておくのも気がひけるので抱えて家の中へ運び、リビングのソファに寝かせた。
 普通はその場で「大丈夫か?」など声をかけるべきなのだろうが、その時はそんなことを考えることもなく家へ運んでいた。なんとなくそうしてしまったんだ。