私が見せたチラシを、怪訝そうな顔をしたギルベルトが奪うように手にとる。


「生徒会主催のダンスコンテスト?だり…」
「アンタの意見は聞いて無い。拒否権は無い」
「はぁ?!っざけんな」
「さ、やると決めたらやるわよ!ついてきなさい!」
「これをやることになんの意味があんだよ!百害あって一利…いや、一利くらいはあるか」


 ウダウダウダウダ…。
 いちいち説明させるんじゃないっつーの!
 というか、百利以上あるから。


「見返すの。私はフランシス、アンタはエリザベータを!」
「見返す?振り返らせるの間違いじゃなくてか?」
「私に間違いなんて無いし」


 まぁ確かにギルはバカで不憫でウザベルトだけど?
 うん、それを言うと大人しく従ってくれないから言わないけど。
 それに、もういいの。どうせ


「とにかく、あと二週間しかないからさっさと練習するの!」
「終わったら何かあんのか?」


 それは…


「終わった時に考える」
「はぁ…」


 あぁっ!もう!


「いいから着いてこいって言ってんだよこのダボが!」


 メメタァ!


「へぶしっ!」


 そこは「あべしっ!」って言え!





 それから二週間。
 時間はあっという間にすぎていった。
 あぁ、そうだ。
 誘ったときに『だり…』とか言ってたからてっきり苦手だから恥かきたくないとかそういう意味でやりたくないのかと思ってた。のに……お貴族様の友人(ギルは否定していた)だけあってか、ダンスが上手いことに絶望した!ギルのダンスが上手いことに絶望した!(大事なことだから二回言いました)
 しかも私がステップを間違えると、口は相変わらず悪いけど丁寧に教えてくれるし…。
 少しだけ見直した…。
 って言うと絶対に調子に乗るから言わないであげた。ギルは不憫なときが一番輝いてるからね!

 ということで…


「ついに本番か」
「この時を待っていた…」
「俺は待ってねーけどな!つーかどこのヤク○だそれ!」
「欧州だけに、奥州の人」
、俺帰るぞ?」
「すいません…」


 あの練習の日から立場が妙に逆転してるってのがちょっと許せない…。ギルの方が上手いから我慢するけど。
 

「いいか。間違えても焦るなよ。一曲踊りきることに意味があんだからよ」
「う…頑張る」
「失敗したら、脱いで俺に土下座しろよな」
「は、はぁ?!」


 何言ってんだこの人はー!?


「いいんだぜ、今から帰っても」
「や、やればいいんでしょやれば!」
「ここまで来たら俺も最後までやりきってやろうじゃねーか」
「お願いします」


 アナウンスが入り、入場する。
 場所について、呼吸を整える。
 同じ場所に、フランシス達の姿も見える…。
 曲が、始まる。



――――――――――



 曲がクライマックスを迎え、フィナーレを告げる。
 なんとか踊りきった。
 誘われたとき、多少は踊れるのかと思って仕方なくパートナーになってやったってのに…からっきしで絶望したけどな。
 途中、は危なかったけどよ。この俺が二週間、放課後は毎日付きっきりで指導してやったんだ。
 ま、踊れないわけがねぇ。


「やればできんじゃねぇか」
「そ、それは…どうも…」


 …って、なんか


、汗かきすぎじゃね?息も普段の練習より荒いし」
「緊張、してた、んだよ…」
「マジで大丈夫か?」
「大丈夫だから、気にしないで…。ほら、早く退場し…」

 
 歩きだそうとしたの体が、ぐらりと揺れた。


!」
「あっギル、ごめ…」
「お前、顔色めちゃくちゃ悪いぞ。体調悪いのか?」
「ぅあ…いやだなぁもう。大丈夫だってば。歩けるって」


 なんでか強情なが再び歩きだそうとして、再び体が揺れてそのまま地面にしゃがみこむ。


「いっ、たぁ」
「お前…足パンパンに腫れてるじゃねーか!」
「あはは、よくあること…」
「歩けなくなったらどうすんだよ!」


 こいつ…こんな足で踊ってたのかよ…。途中で危なかったときにやったのか。
 ちくしょう!なんで言わねぇんだ。いや、気付かなかった俺も悪いな。
 って、あー。今の叫びで会場中の奴等が俺等のこと見てやがる。勘弁してくれよ…。


「保健室行くぜ」
「え?ちょ、うわぁ!」

 
 離せ!なんて喚くをシカトして、俺はを抱いて足早に保健室へ向かった。




 保健室に到着したものの、養護の先生が出張でいないという、ハプニング。なんだなんだ。俺は呪われてるのか?
 とりあえずをベッドに下ろす。が、何すりゃいいんだ?冷やせばいいのか?


「ギル。冷蔵庫の中にアイスノンがあると思うから、それをとってくれると嬉しいんだけど」
「あぁ」


 知ってるなら早く言えよ。意味もなく右往左往しちまったじゃねーか。
 というか、なんでこんなになるまで…。


「どうして、足挫いたのに言わなかったんだよ」
「だって、脱いで土下座なんかしたくなかったし」
「本気にしてたのかよ!」
「踊りきるまではギルの方が立場が上だったし」
「確かにな」
「ここまで頑張ってやってきたのに、途中で諦めたくなかった」
…」
「ギルに、迷惑かけたくなかった…」
「…」
「それだけ」


 俯いて泣きそうなを、俺は抱きしめようとした。
 なんだよそれ…。それだけ、ってお前…。


「迷惑って、お前…」
「二週間つきっきりで面倒見てもら」


 が、

「いつも迷惑かけてんじゃねぇかぁぁぁああああ!!!」



傾いだ僕らの心へ餞を
(少しだけのことが気になっちまったじゃねーか…)