ったく。なんで毎日毎日放課後になったら掃除しなきゃならないんだ?誰だよ「放課後には掃除する」なんて決めた奴は。よりによって今日は教室だし。一番だるい。
 よし、俺はサボる。


「プロイセン、今日は教室掃除ですよね?」


 やべ、ハンガリーじゃねぇか。けど俺はやらない。フライパンで撲殺されようが何されようが俺はやらない。今日は掃除をする気分じゃないんだ。
 ハンガリーを無視して俺は廊下へ出る。


「ちょっとプロイセン!どこ行くんですか?掃除してください!それか大事なところ返せ!


 わざわざ廊下に出てきてハンガリーは俺に叫んだ。またシュレジェンか!と言いたくなったがここで振り向いたらフライパン(どこから出すんだ?)が待っているので俺は答えることも戻る事もせず廊下を進む。ハンガリーはあのまま掃除を続けるだろうから俺を追いかけたりはしなかった。


「いいです。本当は私がフライパンで殴りたいけど、シュレジェン返却も掃除もしないあなたへ最終兵器をだします」


 追いかけはしなかったが、ハンガリーが何かを呟いたと同時に俺は何かとても恐ろしいものの存在を感じ取った。それにより「この場から早く逃げろ」という警告を俺の脳が出したので俺の足取りは自然と早くなる。
 早歩きで10mくらい廊下を歩き、あの角を曲がればあと少しで階段…というところでハンガリーが吼えた。


「召喚獣ーーーーっ!」
「な、何!だと?(つーか召喚獣!?)」


 反応してはいけない…と思いつつもある人物の名前が出たことによって俺は後ろを振り返る。
 と言えば、あのじゃねーか。身長も女にしては高く容姿端麗、頭脳明晰、学園一の美女、高嶺の花…しかしてその実態はフランス・スペインに並ぶただのド変態で、女子のくせに学園中の女子の心を奪い去っていき、絡む女子の胸か尻は絶対に触っていくという…。
 ハンガリーは「召喚獣」と言ったが、「獣」と言うのはあながち間違いではない。日本人ゆえの綺麗な黒髪としなやかな体、例えるなら黒豹あたりだろうか。か弱い小動物(女子)を狙う黒豹…。
 まぁそんな行為をするのは女子に対してのみなので別に大丈夫だろう…との名前が出て動揺した心を落ち着ける。動揺はあの美人が近くにいるかもしれないというのも含まれていたが。
 しかし俺はハンガリーが叫んだとき、動揺により振り返っていた。それが間違いだった。










「どこへ行くのプロイセン?」
「うわあああああああああ!?!?」


 に後ろから抱きしめられるという不意打ちを食らって俺はこれでもかというほど叫ぶ。
 って、ちょ、ぅ、お、おい!後ろから抱きしめられるって不意打ちは誰だって驚くが…っ!


「お前どこ触ってんだぁああ?!」
「え、言ってほしいの?そう、言葉攻めが好きなのね。ドイツに比べ栄養不足によりやや痩せているけれど欧米人特有のがっちりとした胸板に、まぁうちの日本よりは大きいかなっていうペn…」
「そっ、それ以上言うな!それに言葉攻めも好きじゃないぞ!」


 俺は叫びながらを剥がした。学校一の美女だとか噂されている女に後ろから抱きしめられるのは確かに嬉しいが触っている場所がおかしすぎるだろ!
 はおとなしく離れてくれたが、振り返ってを見ると残念そうな顔をしながら「あなたがどこ触ってるんだって聞いてきたんじゃない」と言ってきた。上品な顔をしているのでそんな顔されるともの凄く困る(言ってることは下品極まりないが)。さっきが触ってきたところが興奮する。下じゃなくて胸な。


「別に詳しく答えろとは言ってない…」


 しかしこの女は前述したとおり「絡む女の尻や胸を触る」ド変態だ。今まで男を襲った話は聞いたこと無かったが不覚だ…。そうか、俺が最初ということか。が触ってきた所は胸と俺の「大事なところ」だ。「大事なところ」?そんなもの言わなくてもわかるだろーが!
 というか、はアジアクラスだから俺とはあまり絡みがない。しかも確かに見た目も頭も良くて、ド変態だが俺達男からしたら高嶺の花である(フランスはその変態っぷりがいいと言っていた)。いくらハンガリーに頼まれたからって何故あまり話したこともない俺のところへ来るんだ?(しかも何で俺の胸と股間を触る?!)


「どこを触ったとかは置いておいて、さっさと教室へ行きましょうか、プロイセン」
「あ、あぁ」


 ニコリ…というよりはニヤリとは笑う。綺麗な顔、透る声…とても妖艶に見える。そして真っ直ぐに俺の眼を見て俺の名前を呼んでいる。逆らえるはずもなく、生唾を飲み込んで俺はと共にさきほど出てきた教室へ向かう。未だ胸は興奮している。の隣を歩く機会なんてそうそうないからな(股間を触られることも)。
 その際に隣を歩くへ質問した。高嶺の花ではあるが同じ学年なんで敬語も気も使うこともなくいたって自然に話しかけた(つもりだ)。


「なんで掃除をサボろうとした俺のもとにわざわざお前が来たんだよ?」


 それが不思議でならない。は自分より少し高い俺の顔を見上げて笑う。しかし何も答えずに再び前を向いた。もうすぐ教室に着き、そこでは俺と別れる。
 じゃあな、と言おうとしたとき、


「それはね…」


 と少しだけが口を開く。
 それは?と思った瞬間、襟元を捕まれ、目を閉じたの顔が目の前にあった。そして唇にある感触。


「あなたのことが好きだからよプロイセン」


 いまがしたことも、が笑って言ったことも俺にはわけがわからず呆けてしてしまった。は捕んでいた襟元を俺を突き飛ばすようにして手離す。呆けていた俺はそれによってしりもちをつく。


「だから、早く掃除終わらせなさい。昇降口で待ってるから!」


 そう言って笑ったの顔は先ほどの妖艶な笑みではなく、もっと身近な笑顔だった。断崖絶壁にあった高嶺の花は、俺のオアシスに生けられたんだ。唇の感触と共に。


『いい、ハンガリー。プロイセンが何かしたら今度から私を呼びなさい。なんでかって?それは言えないわ。まぁ一つだけ教えるなら、体を張ってでも伝えたいことがあるのよ。あなたのようにね』


 ハンガリーの驚く声が聞こえたが、今の俺が思うことは「やっぱり今日の掃除は面倒だ」



猟奇的最終兵器な彼女

(いじめたくなるほど愛おしい)