豪華な噴水のある広場で、いつも以上にボヘーッっとした顔でオーストリアさんを待っていたら


じゃねーか!」


 と、私は男の人に声をかけられた…。
 あれー、なんだっけ?この人、見たことあるけど、名前がおもいだせない!


「こんなところで何してるんだ?まさか、お前も一人なのか?いいよな、一人って楽しいよな、一人って。ハハハハハハハ!まぁお前も一人なら俺が遊んでやっても構わねーが」


 いや、一人じゃなくて、オーストリアさんと待ち合わせしているのだけど。一人ってそんなにいいのか?なら話しかけなければいいのに。
 そういえばオーストリアさんとハンガリーは「プ…に気をつけろ」って言ってこの人の写真を見せてくれたような…。あっ!そうか!プ…?あれ、思い出せない…。


「…」
「おい、黙りこくってないでなんとか言えよ」
「プ」
「ぷ?」
「プロ……ン?」
「お前、もしかして」
「プロt「全部言ったら殴るぞ」


 違ったのね…。ドンマイ自分☆
 他に『プ』ってつく名前、思い出さなければ。
 呑気にそんなこと考えつつボケーっとしていたら


「人の名前を忘れんじゃねー!」


 怒られた。そのうえ軽く頭を小突かれた。全部言ってないのに!


「ご、ごめん。いや、でも『プ』がつくってのは覚えてるんだけど、なんだっけ?」
「本人に聞くなよ!」
「あ、ごめん」


 本人に聞くのはやっぱりダメか。アメリカならそうすると思ったんだけど。っていうかオーストリアさんがされてた。


「いいから思い出せよ」


 そんなこと言われても、リアルタイムに私は頑張ってるってば!一人が大好きなら思い出さなくてもいいじゃないか!構うなよ!とか思ってたけど、名前を思い出せない私がそんなこと言っても説得力がないので心にしまっておいて、うーん…って唸っていたら


「思い出すまで、お前を手放さないからな」


 とか言ってくるもんだから、何がなんでも思い出さなければならなくなった。
 手放さないって…私はオーストリアさんとの約束があるのに…。その約束を守るためにも何が何でも思い出さなければ!


「えっと…プロカイン?」
「麻酔か!」
「じゃあ」
「じゃあ…ってなんだよ」


 あっ!そういえばアメリカがこの男の英語の言い方があるって言ってた!


「プロシア!」
「オイ!」
「あれ?違うの?」
「間違ってねーけど、女っぽくていやなんだよ!」
「あ、そっかー」


 私のない頭では、もう無理ポだよ。だから「降参」って言おうとしたら


「お待たせしました。…って、何故プロイセンがここにいるのですか?」
「オーストリアさん!あ、あーーっ!プロイセン!」
「やっと思い出し………げっ!オーストリア!?」


 プロイセンだ!思い出したありがとうオーストリアさん!
 来てそうそう答えをくれたオーストリアさんにお礼をしようとしたら、なんか二人がかなり睨み合ってるんですが…。どうしたの?


「何故いるのかと聞いているのですが」
「お前には関係ねーだろ」
「関係ありますよ。は私と待ち合わせしていたのですから」
「そうかよ!別に俺は帰るからいいけどな。一人の方が気楽でいいしなー」


 あ…。なんかこの喧嘩っぽい空気イヤだな。
 そういえば以前、オーストリアさんはプロイセンのこと苦手って言ってたし。
 でも、私が早く名前思い出せなかったせいだプロイセンはここに残ることになったわけで…。


「行きますよ


 オーストリアさんが私を促そうとしたけど、なんだか今は…名前を間違えてしまったり、また一人になっちゃったというか一人にしてしまったプロイセンに申し訳なく感じて。
 プロイセンはこれでもかっていうほどにオーストリアさんを睨んだあと、背中を向けて黙って歩いていった。
 でも、あの背中から「寂しさ」が伝わってきたような気がした。だから、


「待ってプロイセン!」


 気がついたらプロイセンを追いかけて、しかも、彼の手をつかんでいた。私もプロイセンも驚いてお互いに手を引っ込めたけど、プロイセンは止まってくれた。
 後ろに振り返って、オーストリアさんを見てみたらあの人も驚いた顔をしていたけれど、その後に「困った人ですね…」と聞こえてきそうな顔をして、渋々ながらも時間をくれた。


「なんだよ」


 プロイセンは迷惑そうな、困ったような声で返してきた。
 だから余計、私は申し訳なさと緊張でいっぱいになったわけだけど、精一杯の勇気を出して


「一緒に行こう!」


 一人が好きなら勝手にやってればいいじゃん!
 そんな風にさっきまで思っていたのが嘘のようなセリフを口から出した。
 あんな背中、見てるこっちがいやだから。無性にそう感じたし。


「ハァ!?何言ってるんだお前?」
「だから、一緒に行こうってば!」
「そうじゃねーよ!お前、俺とあいつが仲悪いって見ててわかんねーのか?」
「わかるよ!でも…」


 昔に何かあったって、みんな仲良いほうがいい、と私は思うから。


 それに私は、プロイセンと話したことなんかまったく無くて、いったいどんな人物なのか全然わからない。(保護者二人から悪い話ばかり聞くけど…)だから知りたいって気持ちもある。
 単純、そして自分勝手な考えで行動を開始した私は、思い切ってプロイセンの手を引いてオーストリアさんのもとへきた。


「いいですよね?オーストラ…オーストリアさん!」
「ダメと言っても、連れて行くのでしょう」
「わかってるじゃないですか」
「納得出来ないところも少々ありますが、仕方ありませんね。このままあなたに帰られても困りますから」
「そうですね。拒否されたら私、帰ってました!」
「それは困ります。今日だけですからね…」
「だってさ!よかったねプロイセン!…プロイセン?」


 同行の許可を隣にいたプロイセンに伝えたけど、返答がなかった。
 彼は驚いた顔をして私とオーストリアさんを見ていたが、私たちから目を逸らすと話し始めた。


「おい…デート、するんじゃねーのか?」
「は?何言ってるの?」


 なんつー勘違い!
 そんなことしたら私がフライパンで抹殺されるじゃんか!
 空気読めよプロイセン。だからみんなからハブられるんだよバカ!


「今日はハンガリーへの贈り物を買うだけですが」
「げっ!あの女のっ?」
「いやなら帰ってくれても構わないのですよ」
「あの女は気にくわねぇが、に誘われたから俺は行く」
「そうですか」


 そういってオーストリアさんはスタスタと先行した。呆れたのか諦めたのか、なんだか今はオーストリアさんに対しての申し訳なさでいっぱいになった。確かに一緒に買い物とか、こんな事しても、仲良くなるなんて思ってはいないけどさ。でも大勢いたほうが楽しいじゃんか…。
 あっ!うわぁやばい!あの人コンパス大きいから私も歩かないとおいてかれる!
 よし行こう!と、プロイセンの方を向いて促そうとしたら


「ありがとよ」


 なんて少し微笑みながら言うものだから、ドキッとした…。不覚!
 ハンガリーやオーストリアさんから悪いうわさをかなり聞いていたものだから、どんな悪人なのかと思って名前すら覚えてなかったけど、そんな風にお礼を言われたら…照れるっていうか、素直に嬉しいっていうか…。
 心臓がこれでもかってくらいバクバクに鳴っている。
 うあー。すごい恥ずかしい!


「ど、どーいたしまして」


 いま絶対に顔赤い!なのに「へぇ。んな顔も出来んだな」ってストレートにつっこむなんて…やっぱりこいつ悪人だ!誘わなければよかった!


「うっさい!」


なんて隠せてもいない照れ隠しをして、二人でオーストリアさんの後を追いかけた、ら…





「いつまでの手を握っているつもりですか?」
「「え?」」


 オーストリアさんに追いついて、開口一番そういわれた。
 うぎゃぁああああっ!
 あれ?さっき離さなかったっけ?って、あーっ!こっちに戻ってくるときにもう一回握ったのか!
 私はパニックになりながらもあわてて離そうとして手を引っ込めようとしたけど…


「別にいつまででもいいだろ。はお前の恋人じゃあないんだしよ。ハッ!そのうち俺がもらってくからな」


 プロイセンが力をこめて私の手を握ってきたのでそれはかなわなかった。
 ちょっと!何するのこいつ!
 つーかこいつ今なんていった?すごく恥ずかしいこと言わなかった!?ニヤニヤ笑ってんじゃないわよ!


「ではハンガリーに伝えておきますね。今日のことは」
「それはかわいそうですよオーストリアさん!」
「(俺、死んだかも…)」







Please call my name!

(こうなったら死ぬまで名前間違えてやるから!)




後日…

「今日も会って初っ端から名前を間違えられたんだけど、俺どうしたらいい?」
「私なんか一日に何回も南半球の某国と間違われますが?」
「お互い苦労してるんだな…」
「もう諦めましたよ。彼女だけではなく多くの人が間違えますから…」

なんて話してる男が二人いたとかいなかったとか。