最初に言っておく(ウザッ☆) 菊のお父さんがオリキャラとして出てきます。(性格は菊と正反対です…) それでもよろしければスクロールどうぞ…。 「だから、跡は継ぎませんと何度言ったらわかってくれるのですかっ!」 「菊…」 「学校がありますので、失礼します」 スパァン! と、私は怒りを露わにして襖をしめた。 ―――――――――― 教室に向かうまでの廊下、途中にある掲示板を見る。それがあたしの…あたしたち、WW学園に通うものたちの日課。もちろんアルとかアルとかギルとか(略)、見て無い人もいるだろうけど、あたしには(なるべく)見なければいけない理由がある。 「うわー。今日、図書委員会あるとか…しかも書庫整理とか…鬱だ死のう」 まぁ、死ぬわけは無くて。今日はバイトも出かける用事も無くて、やった早く帰れる!と思ってたのに、これですよ…。昨日までの内に知っていたなら多少の覚悟が出来るからいいですよ。いや、嘘だけど。早く帰りたいけど。何も無いのにサボるのも気が引けるのでとりあえずあたしは出るのですよ。あたし偉くね? 授業もいつもどおり終わって放課後。さっさと自分のノルマを達成して帰るためにそそくさと図書室へ向かう。 ボランティアで図書室の司書をやってくれる方と挨拶をし、書庫整理リストをもらう。あたしの担当は多くもなく少なくもなく…と言った感じで、30分もかからず終わりそうだった。整理を始めようとしたあたりで、隣のクラスの本田君が来た。 「本田君こんにちは」 「こんにちは」 あたしとは正反対で礼儀正しい本田君。あいさつ一つにも気品が漂う様にはもう…仏ですか?と問いたくなる、とかそんなことはどうでもいいね。彼もあたしと同じようにリストをもらって、彼の担当場所の整理を始めた。 20分後。あたしと本田君は同じくらいに自分のノルマを達成した。やった帰れる!と帰りの仕度を始めたところ、司書さんに呼びとめられた。 「20分待っても二人以外誰も来てくれないのよ。悪いけど、出来る範囲で他の書庫もやってくれる?」 「えっ?」「はぁっ?!」 本田君はおとなしく驚いていたけど、あたしの驚き方と言ったら…下品というより汚いといえる。驚き方はともかく、帰れると思ったのにこの仕打ちはなんですか?来なかった奴には明日やらせればいいのに…。司書さんも素敵にドSだと思う。 「来なかった奴は明日来てもらえば?」「わかりました。リストを下さい」 「は?」「ん?」 「ありがとう本田君!」 思いっきり言ってることが被ってたけど、隣にいる人が言ってるのだ。聞こえないわけがなく、あたし達はお互いに顔を見合わせた。見合わせたんだけど、本田君は何事も無かったかのように司書さんにリストをもらった。うん、ここで帰ったらなんだか眉毛が濃くなりそうだったし、股間と乳首にはバラがつきそうだ。彼がいくらいい人であっても、彼一人に任せるのはとても申し訳ない。あたしだってやればできる子なのよ。 「あの、えっと、じゃあ…あたしもやります」 「本当に?!じゃあコレお願いね。私もやるから、3人で頑張りましょう」 「はい」 「はーい」 本田君の凛とするような返事と、あたしの間延びした返事を境に書庫整理は再開される。本当の戦いはここからだった。さきほどの作業を延々、ひとり10人分ほどくりかえすのだ…。だるくてだるくて仕方なかったけど、作業をしている内にだんだん慣れてきて効率が良くなりスピードが上がってくる。そのせいもあって、18時半には仕事が終わった。 「すっかり暗くなっちゃったね…今日は二人共ありがとう!気をつけて帰ってね」 「いえ、お役に立てたなら何よりです。先生もお気をつけて。それでは失礼します」 「お疲れ様でしたー!さいならっ!」 無事に終わって良かったと本当に思う。今度こそやっと帰れる。校門までは本田君と一緒に行き、そこからはダッシュで帰ろうとすると、本田君に呼びとめられたので振り向いた。 「暗くなってしまいましたし、駅まで送りましょうか?」 「えっ?いやいや大丈夫だよ!あたし、生まれてこのかた痴漢や不審者に会ったこと無いし」 「…わかりました。では、気を付けて帰ってくださいね」 「はいはーい。じゃ、またね!」 本当に会ったことがない。運があると思えばいいのか、自分にどれほど色気が無いと思えばいいのか。多分後者だろう。それよりもあたし的には本田君の方が心配だ。あんな中性的な美少年。夜道を歩いていたら45%くらいの確立で不審者に襲われるんじゃなかろうか?本気で心配である。むしろあたしが襲いたいとかは思っていない。 それと、断った理由というのが、本田君の家が駅方向じゃないからだ。朝、何回か駅とは逆方向から来る所を目撃している。書庫整理でただでさえ疲れているだろうに…。これ以上迷惑はかけちゃいけないと思う。 イヤホンをつけて、暗い夜道を歩く。うちの学校の駅までの通学路は、夜になると凄く暗くなる。街灯の十個や百個くらいつけてほしいものだ。 耳に入ってくる軽快な音のせいで、自分の警戒が薄れたのか、あたしは歩いている途中で意識を失った。 ―――――――――― 酒々井さんとは逆方向の道。少しだけ裏の道に入れば黒光りした高級車と、スーツを来た男性が私を待っている。いつも通り男性がドアを開け、私は車内に入り、続いて男性が運転席に座る。 「今日は遅いお帰りですね、若」 「はぁ…。若はやめてくれませんか?私の名前は『菊』ですので」 「若、いい加減、お覚悟なさってはいかがです?」 「誰がなんと言おうと、継ぎませんよ、私は」 家の関係者に会えば、いつも跡継ぎの話…。今日も朝から父上にお会いしてその話を聞きました。 本田家は…大正時代から続く仁侠集団なのです。大正時代から続いているとなれば、由緒正しいのは私だって重々承知しています。ですが、私には父の跡を継ぐ気はありません。ちょうどいいことに今、本田組は弱体化していっています。このまま解散してくれれば…とさえ、思っています。それほど…父の跡は継ぎたくないのです。 思わぬ書庫整理の残業と、耳タコになるくらい聞かされる跡継ぎ話にもう一つため息をついたとき、私の携帯電話が震えた。表示は非通知。仕方なく出てみれば、私は呼吸を忘れるほど驚愕した。 『テメェ、本田菊か?』 「えぇ、そうですが…あなたは?」 『俺のことはどうでもいい。よく聞け。今から一時間以内に<翔光>を持ってこい。じゃねぇとテメェの友人…の命は無いと思え。いいな!』 「ちょっ、ちょっと待ってください!」 ブツッ、と一方的に電話を切られる、ことなんて慣れています。…そんなことより、何故、さんの名前が?と思ったが、先ほど校門まで一緒にいたことを思い出し、ハッとする。無理やりにでも駅まで送っていけばよかった…そう後悔しながら、私は運転手に「急いで家に向かってください!」と指示を出して… 「おう!おかえり!今日は遅いな菊!」 「それどころではありません!父上、<翔(かけり)の間>に着いてきてください!」 「ん?<翔の間>?お前やっと…」 「急いでください!」 「あ、あぁ」 <翔の間>…その単語に反応して父上はおとなしく着いてきてくださる。この部屋の鍵は父上しか持っておらず、父上に頼るしか扉は開かない。そして<翔の間>にあるものというのは、先祖代々受け継がれている刀…さきほど電話の相手が言っていた<翔光>。 父上が鍵を開け、私はすぐに<翔光>を目の前にする。 「お前がそれを手にとるってことは、俺の跡を継ぐってことだぞ?」 「わかっています」 「朝は嫌だって言ってたじゃねーか」 「父上。答えは、後ほど聞いてくれますか?」 「後ほど?」 「私には…やらなければならないことがあるのです!」 ばっ!と<翔光>を手にとり、父上を見れば、父上は私を見て笑った。 「ハッ…いい眼ぇしてんじゃねーか。まるで昔の俺みてぇだな。こりゃ…女がらみか?」 くしゃりと私の頭を撫でながら父上が正解を言うもので…私は顔を赤らめてしまう…。 まったく、子は親に敵わないというものです。 「野郎共!準備しな!あ…夜だから静かにな…」 ―――――――――― 「んっ…」 目が覚めて、腕と足に違和感を感じたので見て見れば縄で縛られていた。って、何これ!いま何時?ここはどこ? 慌ててジタバタしてみるものの、縄が解けるはずもなく、腕は後ろで縛られているので時計を見ることもできず、時間も確認できなくて…。 いや。時間を確認どころじゃない…。今のあたしには何も出来なかった。何も出来なくて、何もわからなくて、自分の無力さが悔しくて悲しくて…涙まで出てきた。両親が心配になって、友達に会いたくて…みんなの顔が頭に浮かんだ。 他にもこの後の自分のこととか想像して、冷や汗がとまらなかった。死ぬかもしれない。外国に売られるかもしれない…。怖くて怖くて仕方なくて…。あの時、本田君に甘えてせめて駅まで送ってもらえばよかったと、自分の甘え下手加減を、心底後悔した。本田君…ごめん、本田君… 「本田君…」 呟きながら、もうひとつ涙が落ちた時、バァン!と勢いよく扉が開いた。そこには息を切らした美少年がいて… 「さんっ!」 「本田君?えっ…?ほ、本当に本田君?!」 「はい。よかった、ご無事で…」 心底安心した本田君が、あたしの腕と足の縄を刀で解いてくれた。 「って、え?!そっ、それ!」 「これですか?大丈夫ですよ。ここにくるまでの方達に私は手を下してませんから」 「そういう問題じゃなくて!えっと、それで縄が切れるってことは…」 にこり、と微笑みながら「本物です」と本田君が答え…。それがいつもの本田君と違ってみえて、ドキリとした。 逃げましょう、と本田君が言ってあたしが立ち上がろうとしたところに、いかにもチンピラです、という格好をした男が数人入ってきた。 「野郎!待ちやがれ!」 「逃がさねぇぞ!」 「ちくしょうが!」 どどど!どうすれば!とあたしがあたふたしていると、本田君があたしに、「壁際によっていてください。怖かったら眼を閉じていてください」と優しく声をかけてくれた。それに従って、あたしはそそっ、と壁際による。 ただ、眼を閉じることはしなかった。してはいけないような気がしたし、見守っていたかったから。 「まったく…仕方のない方達ですね…」 「てめぇ、気取ってんじゃねぇぞ!」 「私を怒らせるとは…。本気で行きますが、よろしいですか?」 「あぁ?!手加減して俺達に勝てるとでも思ってんのかボケ!」 「わかりました、本気で行きます…」 チンピラの睨みにまったく動じず、本田君はさきほど縄を切った刀を納め、逆手に持った。 「覚悟はいいようですので。本田組若頭、本田菊。参ります」 言い終わると同時に、本田君は抜刀しており(反りが逆だ…きっと峰打ちにしてくれたんだろう)、声も無く倒れる一番前の男の人。それを見た他のチンピラは驚いていたが、気合を入れるように雄たけびをあげると一斉に本田君に襲いかかった。 本田君のあれは、抜刀術とか居合いっていうんだろう。流れるように刀をさばいていた。チンピラが動なら、本田君は静。そんな感じで相手を受け流し、次々とチンピラを倒した。 ちん…と刀の納まる音を聞いて、最後のチンピラが落ちた。 まるで映画のワンシーンを見ているようで、私は声も出なかった。 「渡すわけにはいかないのです。彼女も、この刀も…」 本田君が小さく何かを呟いたけど、私にはそれが聞こえなくて…というか立っているのが精一杯で、大丈夫でしたか?と近付いてきた本田君に勢いのままに抱き着いてしまった。 「さん?!」 「ほぎゃあ!!ご、ごめん!」 本田君のビックリした声が聞こえて、なんてことやっちまったんだあたしは!と慌てて体から離れようとしたけど、急に膝に力が入らなくなって、結局本田君に支えられる形で、また抱きついてしまった。 「うわっ!も、もう本当にごめんっ!!」 「いえ、私は大丈夫ですよ。怖かったのですね…。すみません私があのとき送っていたら」 「いや!断ったのはあたしだからさ、あたしが悪いんだって!」 「では…おあいこ、ということにしておきましょうか」 「あはは…そういうことにしておこう…」 うん。あたしは誘拐されてたんだろうけど…それって「おあいこ」で済むようなそんな簡単な話じゃない気がしたけど、これ以上譲らないのもバカみたいなので、そういうことにして、あたしは本田君に支えられて歩き出した。 ところで、あたしには気になることがいくつかあった。 「あのさ、本田君も、さっきのチンピラみたいな…ヤク○さんなの?」 「ふふ…なんですか、その伏字は。薬丸さんじゃないんですから…。まぁ、そのような感じですけれど」 「そうなんだ。でもさ…えっと、こんなこというのってすごい失礼なのかもしれないけど…。あたしって、ヤク○さんじゃないし本田君には一切関係ないハズだし…だから、無関係のあたしなんか助けても本田君には一切の利益が無いと思うんだよね。そうやって考えれば…その、あたしなんか見捨ててもよかったような気がするんだけど…」 「何を言ってるんですか?見捨てるわけないじゃありませんか…」 「えっ?」 本田君の意外な返答と、少しむすっとしたような声で、思わずあたしは驚いてしまった。それに、理由がまた驚きのものだった。 「さんは図書室で、私を見捨てなかったでしょう?」 「あ、あれだけで?!っていうかあれ、本田君じゃなくて司書さんが頼んでたんじゃん!」 「そうです。私達は、恩義を報いるのが信条みたいなものですからね。それに、司書さんは実は草だったようです」 「草?」 「スパイのことです」 「えぇええ?!スパイ?!」 「はい。だから恩義に報いるのはさんだけでいいのです」 そして、さきほどのように、にこりと笑う本田君にあたしは何も言えなくなってしまって…ううん、これだけは言わなきゃね。 「と、とりあえず…その…ありがとう」 「はい、どういたしまして。代わりと言ってはなんですが、一つ頼みを聞いてくれますか?」 「ん?あたしにできることならなんでも!」 「はい、では…」 頼み事があるのらしいので聞こうと思ってたのに、話しながら歩いていたらいつのまにかこの建物の出入り口にに来たようだ。目の前に着物を着たすばらしい体格の男性が立っていて、その人のことを本田君は「父上っ!」と呼ん…父上ぇ?! 「菊!おっ、嬢ちゃんも無事か!でかしたな!」 「守りたいもののためならどこまでも強くなれると教えてくれたのは、父上ですからね」 「はっはっは!お前は今のまんまでも十分強いけどな!で、答えは?場合によっちゃあ<翔光>は返してもらうぞ」 「いえ、それには及びません。跡を継がせていただきます…」 話がまったく読めなくて、あたしが頭にハテナを浮かべまくっていると本田君がこちらを向いた。 「さんとともに」 「ん?あたし?(つーか名前呼び?別にいいけど…)」 「おう、そうか!ちゃん、菊のことをよろしくな!」 「あっ!はい!学校ではむしろあたしがよろしくしてほしいくらいです!」 「そうではなくてですね…」 呆れました…といった声を出した本田君は一度眼を伏せると、意を決したようにあたしの眼を見て口を開いた。 「さん、私と付き合ってくれませんか?」 「え、えええっ?!」 「それが私の頼みです。これはさんにしか出来ないと思うのです。だからさん…お願いします」 ヤク○なんて、あたしにはまったく関係無いって思ってたんだけどな…。あーあ…親が泣くよ…。でもさ、さっきあたしに出来ることならなんでも聞くって言ったし、本田君はあたしにしか出来ないって言ってたし…そんなの… 「き、く……菊?」 「はい」 「あたしで、よければ…よろしくお願いします!」 そう答えるしかないじゃんか! こんなに強くて優しい人なら、むしろ喜んでって感じだけどね…。あはは…先は読めそうもないよ。 私が知る彼と、 彼に潜むわたし (あたしは知らなかった。彼の心にあたしがいたことを) ―――――――――――――――――――― 企画Brunoに提出しようと思ってやめた代物。 さすがにオリキャラ出演と、みなさんシリアスにしてるのに自分だけギャグじゃ…あたしったらどれだけ空気読めてないの?!って思ったので(笑)自重しました。 あとは、終わり方が無理やりすぎましたね。サーセンorz でも、やっと菊のギャグっぽい話が書けてあたしは嬉しいです(ディ・モールト自己満足!) タイトル→不在証明様 |