「試合、頑張ってね」


 なぁんてこと言って応援してるけど、実際、心の中は違う。
 剣道部に所属している本田くんは今週末に引退試合を控えている。と言っても勝てば引退は長引くんだけど。
 問題はそこ。
 引退した後に遊ぼう、って約束してる私と本田くん。
 そりゃあ、早く遊びたい…と普通は思う。
 だから、応援はしている。だけど、早く負けてほしい。

 成績優秀で、文武両道。部活のホープでもある本田くん。
 部員や顧問の先生の期待にこたえるように、努力してるし何より、部活が好きだと言う本田くん。
 
 ごめんなさい。ごめんなさい。
 あなたが部活を大切に思っていることは知っています。
 これが最後かもしれないなんてことは百も千も承知です。
 だけど、早く負けてほしい。

 ああ、ごめんなさい。神様と本田くん。
 こんな醜い心であなたを求めてしまった。許してほしいとは思いません。

 ただ、


求めるのならば、


 それが道理と慰めて。


「試合、勝ちましたよ!引退が長引いてしまいました」
「部活好きの本田くんには嬉しい長引きだね!」


 そして私が醜い心を隠すのも長引くのだ。