庭にひまわりが咲いている。暑い夏をさらに照らすように。 「あなたたちには、特攻隊として、今から米国の軍艦に攻撃してもらいます」 優男風な青年(確か本田菊とか言った)が唐突に言った。青年に顔に表情というものは存在せず。 夏の暑さなど関係ない。青年は冷たく、そして静かに言った。 私は特攻隊基地の食事を作る係りを、あるお婆さんとしていた。 今までこの基地にいる男達をお世話してきて、それなりに良くしたし、良くしてくれもした。仲間だったし、情がわくのも当然の話。 でも、突然来たこいつはあまりにも唐突に基地にいる男たちに現実をぶつけた。 男たちは絶望した顔のものも居れば、ああやっとかという顔のものもいた。集会場が少しどよめくが、本田菊の横にいた男が銃を放とうとして、広場が静かになる。 「あなたたちにかかっています」 お偉いさんってのはいつもそうだ。指示だけして、自分は何もしない。 どっかのお偉いさんは「言ってみせ、やって聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」とか言ったらしいけど、全員その言葉を見習って自分もやれってんだ。言った本人がやったかなんてのは、よく知らないけれど。 「本日、一四〇〇(ひとよんまるまる)、太平洋沖に…」 本田の横にいる男が説明を始める。私は今まで仲良くしてきた人がいなくなる悲しみより、軍への怒りで煮え滾っていた。 説明が終わり、私と仲の良かった人達が「ありがとう」とか「元気でな」とかいろいろ声をかけてくれる。なのに私は返す言葉が、見つからなくて、ただ涙を耐えるのに必死だった。悲しみより怒りが勝っていたけど、目の前にいる人達にはもう会えないんだと思うと、やっぱり悲しみでいっぱいだった。 一四〇〇、十分前。 特攻隊員たちがお神酒を一口ずつ飲んだ。 一四〇〇、八分前。 みんなが戦闘機に乗り込む。もう二度と、彼等は私に会えない。私に会えないどころか、日の目を見る事もない。 全員が飛んでいった。私は見えなくなるまで、最後まで彼等を見送った。 彼等のいなくなった、集会場にいく。そこには片付け忘れたのかお酒の残った一升瓶と…本田の姿があった。 「さんですね?お疲れ様です。申し訳ありませんが後日新しく召集された特攻隊が来るのであなたにはまだ残ってもらいたいのですが…」 私が怒っているのに気付かず、本田は話を進めたが 「さん?」 下を向いて拳を震わせている私を訝しく思ったのか、自分の言葉を一度切って私に問いかけた。 あんたらの勝手な命令で、働かされてる一般人のことを考えない、屑どもめ! と、怒り心頭になった私は傍にあった一升瓶を手にとり、中に残ってたお酒を一気飲みした。 そして飲み干した一升瓶を床にたたきつけた。破片が散らばる。そんなもの問題ではない。 「な、何をやって「このアホッ!」 目の前の本田がとても驚いている。無理はない。食事作りしか出来ないただの女が上官にむかって「アホ」と言っているのだから。 精一杯睨みつけてやったが、本田は驚いた顔を先ほどの表情が無いような顔に戻して何も言い返さなかった。 啖呵を切って言ったものの、何もされないのが馬鹿にされてんじゃないかって思えて、だんだん悔しくなってきて、ちっぽけな自分は本当に何も出来ないんだなって悲しくなってきて、涙が出そうになったのでその場を去った。 涙を拭いながら去る私には 「終わらせられるのならば、とっくにそうしています…。誰も傷つくことのない国を早く…」 そう言った―この『国』の願い―を聞くことは無かった。 ひまわりの首は折れてしまった。太陽を追うことに必死で、自分のことは見えてなかった。 小さな命の煌きは (きっと見つけてもらえない) |