むに〜ん。
 と、いうような言葉はあまり使いたくはないが、私が今眼前の少女――にされてる行為を音で表現するのであればこれが一番合うような気がする。
 言葉で説明するならば、の手により私の頬がいじられている、というわけだ。
 このような行為、私が悦ぶわけもないが、自分の主のような人の客であるに手をあげることもかなわず、私はそのまま黙っていた。
 すると、がムッと眉間に皺を寄せて不満そうな顔をしてこちらを見た。あの方と一緒にいらっしゃるときには見た事のない顔で。


「ナターリャはいつになったら笑うのさ?」


 は…?
 笑う?笑顔…というわけですか。


「今の私にはそのようなもの必要ありません」


 と、淡々と返すと尚、の眉間の皺は増えた。
 同時に、身長の差により私の顔へ腕をあげることが疲れたのか、の手は私の顔から離れていった。


「必要ない…って。ナターリャは生きてて楽しくないの?」


 何故『笑顔』に対する質問がそこまで飛躍するのかが皆目見当もつきませんが、


「そのようなことはありません」
「えー!じゃあなんで楽しいのに笑ったりしないの?」


 返せば投げてくる。彼女はまるでキャッチボールを終わらせぬようにと何度も質問を投げかけてくる。
 キャッチボールというより、まるで尋問なのではないかと思うほどだ。
 でも、
 

「それは…」


 それは、何故だろう。
 昔は笑っていた?ならば何故、いつ、笑い方を忘れたのか?
 最初から笑い方など知らなかった?ならばそれは何故?

 言われてみれば、何故私は笑わないのだろう。

 言いかけて、淀む私を見かねたのか、は『何故笑わないのか』ということをスルーして話を進めた。


「何かのお話で誰かが最期に『私のために笑って』って言ってた人がいるんだけど、それはおかしいと思うんだよね。大切な人が死ぬときに笑えるわけないよ」


 私は黙っての話を聞いていた。(普段からあまり話さないじゃん、とに言われそうね(それは自覚しているけれども)
 は続ける。


「だって、自分が嬉しいから、自分が楽しいから笑うんでしょ?だから笑顔は自分のためにあると思うんだけど…。無理して笑う必要はないと思うけどさ、楽しかったりしたら自然と笑っちゃうもんだと思うけどなー。まぁ、大切な人の笑顔で勇気を貰うってのは認めるけど」


 そう言うと、の手は再び私の頬に触れた。
 そして彼女はにこっと笑って言った。


「なんでナターリャが笑わないのかはわかんないけど、『笑うこと』は今からでも遅いなんてこと全然無いし、だからさ、楽しいことや嬉しいことがあったならこれからどんどん笑いなって!」


 私が何故笑わないのかは、私自身もわからないけれど、ただ私の頬に触れるの手の温度が心地良くて、


「そうですね、尽力します」


 私は何故か嬉しくなった。




笑顔の温度

「あ!笑ったー!うひゃあ!」
(何故そこで騒ぐのですか…)